一口モノ

今日の市場は、某詩人旧蔵書の一口モノが出品され大変賑わった。お客さんのところから直接持ち込まれた出品物を「ウブい口」といい、量とジャンルがある程度まとまっていると「一口物」(ヒトクチモノ)もしくは「一口」(ヒトクチ)ともいう。
こういう良い口は、然るべき期間をかけて丹念に仕分けし、目録などとり、告知し、特選市・大市など出せば、さらに高い値を呼ぶだろうが、不思議と何の予告も無くと普通の市(通常市)に出品される。これが市場の面白さだろう。
市場に行ってわかったが、「某詩人」は戦前から活躍した人物で、一般の知名度は低いだろうが、ちょっと近代文学史を齧れば出てくる名前。出品予告の詩集のリストから只者ではないと思っていたが、まさかこんな大物とは。書籍の状態はよくないが、かなりの優品が並んでいる。イイモノはある程度抜かれて、1点もしくは数点づつ出品されているが、前日からの急な仕分けのせいか、その他大勢は数本ずつ束ねて=「本口」(ホングチ)にされ積まれている。
この有名詩人であれば、同年代、後輩の本は献呈本である可能性が高い。ただ山積みになっている本を1冊ずつは見られない。数点確認した後は「賭け」だ。実は以前この手の一口モノでおいしい思いをしたことがある。某古書店店員さんの口で、店員と言っても大きな老舗の番頭さんで、作家さんたちとの交流で有名な方。現代文学のそれこそ初版でも何でもなければ100円均一行きの大山に、その交流のある作家の著作がいくつか入っていた。ほとんど入札されていないので、限りなく安い札で落とせた。早速検品すると献呈署名がコロコロ入っていたわけだ。
そんなこともあって、とある大山に思った値段×2倍くらい=数万円を入れた。開札が進み、確認するとウチに落ちている。おお、やったと喜ぶも、経営員が間違えましたとF書房さんの札に付け替えた。??
どうもFさんの10万から始まる札を1ケタ見誤ったようだ。つまりウチは2番。上札は30万まで入っており、まったく及びでなかった。後で教えてくれたのだが、某探偵作家の初期の作品が入っていたとか・・。そこからFさんの狂ったようにこの口を落としまくり、大山から単品まで根こそぎ買いまくった。雑誌の束にはドエライ珍しいものも混じっていたらしい。よしんばその価値を頭で知っていたとしても、Fさんのような札は書けないだろう。「売れるかな」「落ちるかな」程度の気持ちがあるとまず駄目だ。「何が何でも欲しい!」の一念がなくては、こういう一口モノの日は空振りに終わる。